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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)15593号 中間判決 1989年5月30日

①判決

原告

宮越機工株式会社

右代表者代表取締役

宮越豊

右訴訟代理人弁護士

福島栄一

鈴木正具

井上康一

牧元大介

被告

グールド・インク

右代表者社長

ジェームス・エフ・マクドナルド

右訴訟代理人外国弁護士資格者

トーマス・エル・ブレークモア

右訴訟代理人弁護士

大塚正民

安田三洋

木村眞

右訴訟復代理人弁護士

上柳敏郎

主文

本件訴訟につき当裁判所は裁判管轄権を有する。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  別紙目録一記載の事実に基づく原告の被告に対する不法行為による損害賠償債務が存在しないことを確認する。

2  別紙目録二記載の事実に基づく原告の被告に対する不当利得返還債務が存在しないことを確認する。

3  別紙目録一記載の事実に基づく原告の不法行為又は別紙目録三記載の被告のノウ・ハウに対する原告の侵害行為についての被告の原告に対する差止請求権が存在しないことを確認する。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  本案前の答弁

1(主位的答弁)

(一)  本件訴えを却下する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

2(予備的答弁)

本件訴訟手続を中止する。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、原告に対して請求の趣旨記載の債権及び差止請求権を有すると主張している。

2  よって、原告は、右債権及び差止請求権が存在しないことの確認を求める。

二  裁判管轄に関する原告の主張

1  国際的裁判管轄について

(一) 被告が主張する別紙目録一記載の原告の行為(以下「本件不法行為」という。)が行われた地は、日本の東京である。すなわち、被告は、アメリカ合衆国において、三井金属鉱業株式会社(以下「三井金属」という。)、ペシネ・ユジーヌ・クルマン(フランス国法人)、トレフメトー(フランス国法人)及び原告を共同被告として、不正競争、企業機密の盗用、不当利得及び組織犯罪取締法(一九七〇年法)の「たかり行為者の影響をうけた不正組織に関する条項」違反に基づく民事救済を求め、オハイオ州北部東地区連邦地方裁判所に、昭和六〇年一〇月二一日、訴え「事件番号C85―3199。以下「米国訴訟」という。)を提起したが、米国訴訟における被告の主張によれば、原告が新規事業の展開のために、被告の銅フォイル事業に関する専有フォイル情報を得てそれを日本においてのみ利用することを企図し、デンバー・テクノロジーズ・グループ・インク(以下「訴外会社」という。)との間で、銅箔の表面処理に関する新しいシステムについての技術援助契約(以下「本件契約」という。)を締結してその技術指導を受け、違法に右専有フォイル情報を入手したことが不法行為の内容であるとされているところ、本件契約を締結するための交渉及び契約書への署名並びに訴外会社から原告への技術指導は、いずれも東京で行われた。

しかして、国際的裁判管轄の有無の判断については、我が国の民事訴訟法上の土地管轄に関する規定を参酌すべきであるところ、日本の裁判所は、本件の審理について不法行為地(同法一五条一項の「不法行為アリタル地」)の裁判所として国際的裁判管轄権を有するというべきである。

(二) 右結論は、裁判を適正、公平かつ能率的に行うという裁判制度一般についての基本理念にも適合する。すなわち、

(1) 被告は、電子システム・製品・部品等の製造等を業とする大資本のアメリカ合衆国法人であって、世界的規模で事業活動を営んでおり、日本国内にも子会社を有している。したがって、本件訴訟の審理・裁判を日本の裁判所で行うことは、被告に対し何ら不利益を強いるものではない。これに対し、原告は、資本金五〇万円の小企業に過ぎず、アメリカ合衆国内はもとより、日本国内においても肩書地本店以外に何らの営業所、出張所及び子会社等を有しない。したがって、原告が多額の費用負担を強いられる米国訴訟を遂行することは事実上不可能であり、現に米国訴訟においては、原告は欠席し訴訟活動を行なっていないのであって、本件訴訟の審理を日本の裁判所で行ってはじめて、原告に対し実質的な手続的保障が与えられ、当事者間の公平を図ることができる。

(2) 本件不法行為の成否を判断するための証拠の収集は、アメリカ合衆国の裁判所で行うより、被告の主張するところによれば不法行為地である日本の裁判所で行う方が、はるかに便宜に適うものである。したがって、本件訴訟の審理に最もふさわしい裁判所は、日本の裁判所である。

(三) そして、不法行為による損害賠償債務の不存在の確認を求める請求について日本の裁判所に管轄権が認められる以上、これと客観的併合の関係にある他の請求についても、日本の裁判所に管轄権が認められるというべきである。

2  国際的二重起訴について

(一) 民事訴訟法二三一条にいう「裁判所」とは、日本の裁判所を意味するものであって、外国の裁判所は含まないというべきであり、国際的二重起訴を規制する実定法上の根拠はない。したがって、同一の当事者間で同一訴訟物に係る訴訟が日米両国の裁判所に同時に係属したとしても、二重起訴の禁止の問題が生ずる余地はない。

(二) また、本件訴訟は、二重起訴として規制されるべき実質的根拠を欠くものである。すなわち、原告は、米国訴訟に応訴することが事実上不可能であるため、やむなく本訴を提起したものであるから、本訴の提起は、濫訴防止の要請に反するものではない。また、原告は、米国訴訟においては欠席しており、実質的にみて審理が重複するおそれはないから、訴訟経済の要請にも反しない。さらに、本件訴訟についての判決が確定すれば、米国訴訟において反対の結論の判決がされても、その判決は、日本において民事訴訟法二〇〇条三号の「公ノ秩序」に反するものとして承認されないことになるから、判決の抵触は現実に生じない。

(三) 将来における米国訴訟の判決が民事訴訟法二〇〇条に定める承認要件を具備するかどうかを事前に予測することは極めて困難であり、特に、同条三号の要件の具備を判決確定前に判断することは不可能であるから、米国訴訟の承認可能性を理由として、本件訴訟を規制することは、理論それ自体としてみても不当である。

(四) 本件において、将来下される可能性のある米国訴訟の判決が、民事訴訟法二〇〇条一号のいわゆる間接的裁判管轄の要件を具備する可能性があるということはできない。すなわち、前記1(一)のとおり、被告の主張によれば不法行為地は、専ら日本であって、アメリカ合衆国においては、何らの不法行為も行なわれておらず、原告とアメリカ合衆国オハイオ州との関連性は一切ない。また、前記1(二)のとおり、原告にとって実質的な手続保障が与えられ、かつ、本件訴訟の審理に最も適切である裁判所は、日本の裁判所である。したがって、オハイオ州の連邦地方裁判所には、承認要件であるいわゆる間接的裁判籍の存在は認められないといわざるをえない。

三  被告の本案前の主張

1  原告と訴外会社との間の技術援助契約の締結のための交渉、右契約への署名及び右契約に基づく技術指導等本件不法行為の一部が東京においても行われたことは認める。

2  しかしながら、以下のとおり、本件訴訟の提起に先立って提起された同一当事者間の同一訴訟に係る米国訴訟の判決が、民事訴訟法二〇〇条の要件をすべて満たし、日本で承認されることになる可能性は極めて高い。

(一) 民事訴訟法二〇〇条一号の要件(いわゆる間接的裁判管轄)について

本件不法行為の主要部分はオハイオ州で行なわれており、したがって、オハイオ州の連邦裁判所は、いわゆる間接的裁判管轄を有する。すなわち、本件不法行為は、三井金属、訴外会社及び原告が、共謀の上、原告を通じて三井金属が訴外会社から被告保有の別紙目録三記載のノウ・ハウに含まれる専有フォイル情報を入手するという計画を立案し、実行したというものであるところ、本件不法行為を実行するため、三井金属と訴外会社との間で交渉が行われた場所は、主としてオハイオ州である。そして、原告が入手した専有フォイル情報に係る技術的図面、技術的デザイン等の書面の準備作成はいずれもオハイオ州において行われ、本件契約に係る対価の授受もオハイオ州で行われた。さらに、専有フォイル情報の盗取によって、被告が最も被害を受けた地は、被告の銅箔部門が存するオハイオ州であった。したがって、本件不法行為の加害行為地及び損害発生地は主としてオハイオ州であるというべきであり、オハイオ州の連邦地方裁判所には、米国訴訟の判決の日本における承認の要件の一であるいわゆる間接的裁判管轄が認められるというべきである。

(二) 同条二号の要件について

米国訴訟について、原告は、公示送達によらないで訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達を受けたものである。

(三) 同条四号の要件について

オハイオ州は、外国金銭判決の承認、執行に関する制定法を有しており、また、金銭判決以外の外国判決については、アメリカ合衆国連邦最高裁判所のヒルトン対ギーヨウ判決(159 U. S. 113(1895))は、外国判決の執行力を日本の民事訴訟法とほぼ同一の条件により認めているものと解されており、オハイオ州においても、連邦最高裁判所の右判例に従うものであると推認することができるから、オハイオ州については同条四号の相互の保証の要件が存在するというべきである。

3  さらに、証拠収集の便宜及び実体的審理等の面からみても、本件不法行為の審理については、日本の裁判所よりもオハイオ州の裁判所がより適切である。このことは、本件不法行為の主たる加害行為地及び損害発生地がいずれもオハイオ州であり、オハイオ州の連邦裁判所の方がより事実関係に密接な関連性を有していること、本件不法行為に関する書証の大半は英文により作成され、証人の多くも英語を母国語とすること、本件不法行為は、企業秘密情報の不法取得が問題にされているところ、日本の訴訟手続においては右企業秘密を非公開としながら、審理する手段が用意されていないが、オハイオ州では、秘密情報を保護しつつ事案を解明する訴訟手続が用意されていること等の諸点から明らかである。

4  被告は、訴外会社、三井金属及び原告の共謀による一連の不法行為を問題にしているものであるが、本件訴訟は、原告が三井金属の身代りとなって日本に提訴し、審理を東京地方裁判所と三井金属が被告となっているオハイオ州の連邦地方裁判所とに国際的に分断して、被告を煩わせようとする意図に基づき提起したものであり、濫訴といわざるを得ず、本件訴訟は制限されるべきである。

5  よって、本訴の提起は、国際的二重起訴として不適法であるから、本件訴訟は、却下されるべきであり、仮にそうでないとしても、将来において、米国訴訟の判決が確定し、承認要件の具備が確認されるまでの間、民事訴訟法二二〇条又は二二一条に基づき、本件訴訟手続は中止されるべきである。

理由

一本件訴訟は、日本法に基づき設立され日本国内に本店を有する会社である原告が、日本の裁判所に対し、アメリカ合衆国デラウエア州法に基づき設立され同国イリノイ州内に本店を有する会社である被告を相手方として、別紙目録一記載の事実に基づく原告の被告に対する不法行為による損害賠償債務、同目録二記載の事実に基づく原告の被告に対する不当利得返還債務及び同目録一記載の事実に基づく原告の不法行為又は同目録三記載の被告のノウ・ハウに対する原告の侵害行為についての被告の原告に対する差止請求権がいずれも存在しないことの確認を求めるものである。

二ところで、いわゆる当事者の双方又は一方が外国法人であるような民事訴訟事件について、我が国の裁判所が管轄権を有するかどうかについては、これに関する我が国が締結している条約や一般に承認された国際法上の原則がなく、国内的にもこれを規律する成文法の規定がない現状においては、当事者間の公平をはかり、裁判の適正・迅速を期するという理念により条理に従って決定するのが相当であるが、当該事件について我が国の民事訴訟法の国内の土地管轄に関する規定の適用によれば管轄が我が国内にあると認められる場合は、我が国の裁判所に当該事件についての国際裁判管轄権の存在を認めることが右条理に適うものと一般に解される。

そして、本件訴訟において損害賠償債権の発生原因として被告が主張立証しなければならない別紙目録一記載の事実(本件不法行為)は、要するに、原告が、被告の元従業員であるデンバーが設立した訴外会社を通じて、デンバーの被告に対する雇用契約上の秘密保持義務違反に当たることを知りながら、被告の専有フォイル情報を違法に入手したというものであって、この債権は、民法七〇九条の不法行為による損害賠償債権と同様の性質を有するものということができるから、その消極的確認を求める本件訴訟の国際的裁判管轄権の有無を判断するについては、立証の便宜の観点から不法行為地に特別裁判籍を認めた民事訴訟法一五条一項の趣旨を斟酌し、不法行為地が我が国内にあるときは、我が国の裁判所が管轄権を有するものと解することが右条理に適うものというべきである。

ところで、別紙目録一記載の事実のうち、原告が訴外会社との間で、銅箔の表面処理に関する新しいシステムについての本件契約を締結し、右契約に基づき訴外会社から技術指導を受けたこと並びに右契約を締結するための交渉、契約書の作成及び技術指導がいずれも日本の東京で行われたことは、当事者間に争いがない。右事実によれば、本件不法行為の加害行為とされているもののうち専有フォイル情報の入手という重要な行為が日本の東京で行われたことになる。

したがって、本件においては、我が国の裁判所に不法行為地の裁判所として国際的裁判管轄権を認めることが条理に適うものというべきである。また、これと客観的併合の関係にある他の請求についても、民事訴訟法二一条の趣旨により我が国の裁判所に管轄権が認められると解するのが相当である。

三次に、<証拠>によれば、原告による本訴提起に先立ち、被告は原告を相手方として、昭和六〇年一〇月二一日、アメリカ合衆国オハイオ州北部東地区連邦地方裁判所に対し、本件訴訟と同一の訴訟物について、法及び衡平法等に基づく不正競争、企業機密の盗用、不当利得に対する訴え及び組織犯罪取締法(一九七〇年法)の「たかり行為者の影響をうけた不正組織に関する条項」(18 U. S. C. §§ 1961-1968)違反に基づく民事救済を求める訴え(米国訴訟)を提起しており、本件口頭弁論終結時において、右米国訴訟がなお係属中であることが明らかである。そのため、被告は、本訴の提起が国際的二重起訴に該当することを理由に本件訴えの却下又は訴訟手続の中止を求めている。

そこで検討するに、まず、二重起訴の禁止を定める民事訴訟法二三一条の該当性については、同条にいう「裁判所」とは、我が国の裁判所を意味するものであって、外国の裁判所は含まないものと解するのが相当であるから、本件訴訟が同条に定める二重起訴に当たるとすることはできない。また、そもそも、国際的な二重起訴の場合は、国内的な二重起訴の場合と異なり、これをいかなる要件のもとにどのように規律すべきかについて実定法上の定めがない上、内国訴訟においては、原告が選択した管轄裁判所で審理することが被告に著しい損害を与える場合には他の管轄裁判所に移送する制度(民事訴訟法三一条)が存するのに対し、外国の裁判所に係属した事件についてはそのような制度がなく、また、主権国家が並存し、各国家間に統一された裁判制度も国際的な管轄の分配に関する一般的に承認された原則も存在しない現状においては、安易に先行する外国訴訟に常に優位を認めることも適当ではないといわなければならない。しかし、国際的な規模での取引活動が広く行なわれている今日の社会において、日本の裁判所に管轄権が認められさえすれば、同一の訴訟物に関する外国訴訟の係属を一切顧慮することなく常に国際的な二重起訴状態を無視して審理を進めてよいとも認め難い。そこで、この点については、同法二〇〇条が一定の承認要件の下に外国判決の国内的効力を承認する制度を設けている趣旨を考え、国際的な二重起訴の場合にも、先行する外国訴訟について本案判決がされてそれが確定に至ることが相当の確実性をもって予測され、かつ、その判決が我が国において承認される可能性があるときは、判決の抵触の防止や当事者の公平、裁判の適正・迅速、更には訴訟経済といった観点から、二重起訴の禁止の法理を類推して、後訴を規制することが相当とされることもあり得るというべきである。

しかしながら、弁論の全趣旨によれば、本件口頭弁論終結時において、米国訴訟は、共同被告である三井金属、ペシネ及びトレフメトーが、それぞれ、オハイオ州の連邦地方裁判所が管轄権を有することを争っているため、欠席したまま何ら訴訟活動を行っていない原告に対する関係をも含め、全体としていまだ本案審理を開始する段階に至っていないことが認められ、将来において米国訴訟についての本案判決が下され、それが確定するに至るかどうかについては、現段階で相当の確実性をもって予測することはできない。そして、同法二〇〇条の要件のうち、三号の要件については、それが将来における米国訴訟の判決の内容のみならずその成立過程に関する事柄を含むものである以上、現段階でいまだ本案審理も開始されていない米国訴訟の判決が同号の要件を具備するものと断定することもまた困難である。

してみれば、本件について、我が国の裁判所が、不法行為地の裁判所として管轄権を有するにもかかわらず、現段階で承認可能性のある本案判決がされるかどうかを確実に予測することができない米国訴訟が先に係属していることを理由に二重起訴の禁止の法理の趣旨を類推して本件訴えを不適法として却下し、その審理を拒絶することは相当ではないといわなければならない。

なお、被告は、原告と三井金属とは共謀関係にあるところ、本件訴訟は、原告が三井金属の意を受けて国際的に紛争を分断する不当な意図に基づいて提起したものであると主張している。しかし、原告と三井金属との関係がどのようなものであるかは、実体上は一つの問題となりうるであろうが、訴訟手続においては、原告は、あくまで、当事者として独立した地位が保障されており、三井金属と協同して訴訟行為をする義務はないのであるから、被告の主張するような共謀関係の有無等を考慮して本件訴えを不適法とすることはできない。

また、被告は、企業秘密を非公開としながら審理するための訴訟手続が用意さている点で、オハイオ州の訴訟手続の方が本件の審理についてより適切であるとも主張するが、裁判の公開も近代憲法が認める重要な原則であって、オハイオ州の訴訟手続が我が国のそれより当然に適切であるともいえないから、この点は、二重起訴の禁止の法理の適用について考慮すべき重要な要素であるとはいえない。

四次に、被告は、予備的に本件訴訟手続の中止を求めている。しかし、民事訴訟法上、訴訟手続の中止が認められるのは、裁判所の職務執行不能による場合(同法二二〇条)及び当事者の故障による場合(同法二二一条)に限られており、国際的な二重起訴の場合に裁判所に訴訟手続を中止する権限を認める成文上の根拠はないから、この点の被告の主張も採用することができない。

五以上によれば、本件訴訟に関し、当裁判所が裁判管轄権を有するというべきであるから、主文のとおり中間判決する。

(裁判長裁判官青山正明 裁判官千葉勝美 裁判官清水響)

別紙目録

一 原告の不法行為

原告は、一九八四年一〇月ころ、被告の電気分解用銅フォイル部門の元従業員デール・シー・デンバー(以下「デンバー」という。)が社長兼株主であるデンバー・テクノロジーズ・グループ・インクとの間で技術援助契約を締結し、右契約に基づき同会社から一九八五年ころまで数度にわたり、被告の銅フォイル事業に関する秘密製造過程、装置のデザイン及びフォーミュレーション並びにその他の専有技術及び事業情報(以下「専有フォイル情報」という。)の供与を受けた。

しかしながら、この専有フォイル情報は、被告が独占的に有するノウ・ハウに含まれるものである上、原告が同会社との間で右技術援助契約を締結し、それに基づき専有フォイル情報を入手したことは、被告とデンバーとの間の一九八一年六月一五日付雇用契約によりデンバーが被告に負っていた秘密保持義務に違反するものである。

原告は、右技術援助契約締結及び専有フォイル情報入手の際、右事情を知りながら専有フォイル情報を獲得するとともに、デンバーに右雇用契約違反の行為をさせた上、銅フォイルの商業的生産又はその改良のために専有フォイル情報を使用し、かつ、現に使用しているのである。

原告の以上の行為は、被告が専有フォイルの開発に費やした莫大な投資及び努力に由来する排他的利益並びに被告の銅フォイル市場における優越的地位を侵害し、かつ、将来においても侵害するもので、被告に対し、莫大かつ回復不可能な損害を与え、原告のこのような行為が差し止められない限り、被告の損害は継続するものである。

二 原告の不当利得行為

原告は、一記載のとおり、被告の専有フォイル情報を入手し、使用し、かつ、将来においても使用することにより、被告が専有フォイル情報の開発に費やした莫大な投資及び努力に由来する排他的利益並びに被告の銅フォイル市場における優位性を減少させ、かつ、将来においても減少させるとともに、法律上の原因なくして専有フォイル情報を取得し、本来原告が専有フォイル情報を正当に取得する場合に要する費用を節約して利益を得、かつ、将来においても得るものである。

三 被告が有するノウ・ハウ

被告の電気分解用銅フォイル事業に関する秘密製造過程、装置のデザイン及びフォーミュレーション並びにその他の専有技術及び事業情報(電鋳セルの構造及び配列、電解液の合成、洗浄システムデザイン、流風装置、フォイル安定化のための電着後の処理に関する事項についての情報並びに多様な秘密の事業情報を含む。)

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